インサイト 2017-11-27

【第2回】変革を迫られる日本の商業空間~SCとEC、購買行動はこれほど違う~:樋口 進

higuchi

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第1回の記事で、日本の商業を支えてきたSC(ショッピングセンター)が今、大きな岐路にあることを説明した。そこで、洗い出した問題点をおさらいをすると、

現行SC開発上の問題点
●売場面積を増やしても市場の拡大は限定的。飲食と物販テナント面積を拡げ過ぎた。
●SCは集客装置という考えでありながら、顧客への価値提供概念が弱いので、再来店する魅力が作れない。
●マーチャンダイジングという発想欠落。生活者の気持ちと裏腹に有名店揃え・ブランド揃えになっている。
●20年・30年続ける商業施設が、話題性コンセプトだけで企画・開発されてしまう。
●ゾーニングが不在のため、ワンストップショッピングの利便性を著しく損なっている。

という感じだ。

目的が決まっている買物客は意外に少ない!

まずは、生活者の購買行動観点から上記をかいつまんで説明する。
大規模商業施設が生活者を惹き付ける枠組みは、ヒトと商品の出会いの『偶然性』と『必然性』の提供だ。これは生活者にとっての『衝動』と『目的』と言い換えても良い。
既に買うと決めた商品の買物を楽しめる人はあまり居ない。買物は今の時代もはや娯楽ではないからだ。そして、商品を選ぶ・探す楽しみとは、自分の生活に変化と夢を描くことだ。
例えば…

●これを持っていたら生活が楽しくなるかも。
●あそこへ行くとき、このレジャーをするときにこれがあったらさらに楽しめるかも。
●この服をあそこに着ていったら、みんなから褒められるかも。

など、自分の新しいライフシーンや趣味の世界、自分の変身を想像してほくそ笑む。それがウィンドウショッピングの醍醐味でもある。
それは商品との偶然の出会いから始まることも多い。そして一度思いをめぐらせ始めた消費者には、それと関係ない(別の切り口の)商品は目に入らなくなる。その意味で大型商業施設における人の行動は、刺激を受けながら、常に目的を生み出して、それを探そうとするサイクリックな行動だ。ちなみに、男性が女性に比べてお買い物好きが少ないのは、モノを買うことで想像しやすい夢やシーンが少ないからだ。また男性は、派生的に夢想を膨らませる右脳的機能よりも左脳のくびきが強いという面もあるだろう。
以下、クリスマスというシーズンイベントシーンで、ヒトが商品を衝動買いする関連チャートを作成してみた。


クリスマスのコト空間における芋づる式消費マインドとは例えば以下のようなものだ。

【スタート】クリスマスを盛り上げるのはといえば音楽と光でしょう!
⇒バスタイムにもクリスマス気分でリラックスできないか?お風呂の湯船にキラキラするモチーフを浮かべたら幻想的かも?
⇒タオルとかもクリスマスモードかな?どうせならバスマットも。
⇒防水のBluetoothスピーカーでクリスマスソング?でもスマートスピーカーだと、リクエストに簡単に応えてくれそう。
⇒イルミネーションは最近LEDで凄く安いし、電池でも照らせるらしい。窓に吊るすか?
⇒でも、終わるとすぐお正月だし、片づけるのが楽なのが良いな。
⇒うちの嫁、片づけられない女だから収納用品買わないと大変なことになる…。

生活者の行動(コト)がベースにあって、そのイメージをモノによって喚起する。
どんな場所で、どんなヒトと、どんな道具立てで、どんな楽しさやサプライズが起こるか?……を想起させるのだ。
顧客の想像力に訴えかけ、シーンやその前後をイメージさせられれば、消費マインドは活性化して買物行動に拍車がかかる。

商業施設の思惑とテナントの自己都合!

生活者は商業施設になんらかの大雑把な目的を抱いてやってくるが、館内で刺激を受けながらそれは変化する。
想定外のサプライズや楽しい刺激は非常に重要だ。しかし目的が見えた場合にはそれに合致した商品やサービスを素早く探したい。その意味では商品やサービスが、関連性やテーマ性、ライフシーンで探せるまたは分類されている仕掛けが必要だ。適度な興味分散型の商品配置は必要だが、これぞと思ったときには目的商品を一箇所で探せるしくみが欲しい。その工夫を小売業界ではこれまで、業態という括りや、品揃え、ゾーニング、陳列、VMDなどによって達成していた。

しかし、今や人々の興味は多様化しつつあり、商品配置の工夫だけでは複数のマインド、変化するマインドには対応しきれない。
なので、ショップの中での品揃えや陳列はまさにマーチャンダイザーやバイヤーの『こんな買い方をして欲しい!』というポリシー一本で設計されている。
そして、SCの館全体のゾーニングはSC開発の専門家(商業プランナー)が提案はするが、テナントに交渉したり、家賃を決めるのはデベロッパーのリーシング担当。なので、ほぼ思い通りにはならない。昔はテーマゾーニングが当たり前だったが、大手SCでそれができているところは今やほとんどない。商業運営者側の『お客の気持ちなんか所詮わからないし、意図通りのゾーニングなんてできるはずない!…という諦め』が透けて見える。

飲食、食品、それ以外の物販程度しか区分けされていない現行商業施設

もちろん、これらの『売場ゾーニング不在』の原因は、大規模商業施設担当者だけの責任ではない。各テナントとなるチェーンストアが『ライフスタイル提案』の旗印の元に、一つの店舗でカバーするターゲット範囲やアイテムの範囲を拡大して、自社店舗のみで購入完結させようとしている(様に見える)ことも、SCリーシング担当者の悩みを大きくしている。
かつての百貨店のように、レディス・ファッション、レディス・コスメ、レディスシューズ、メンズ・ファッション、メンズ・バッグ……のようにターゲット×アイテムでフロア内を区分けできなくなったのだ。
ファッションのセレクトショップやSPAブランドはファッション以外の服飾雑貨、生活雑貨やインテリアすらも扱うようになっているからだ。そして大手チェーンではレディス+メンズ+キッズをトータルで扱う店舗も増えている。この状態で、買い物客の利便性を固定的な店舗ゾーニングだけで実現するのは困難になりつつあるのだ。

Eコマースでは『コト』が見えない!

皮肉なことだが、最近はEコマースのショップの方がカスタマージャーニーとか言って、顧客のマインドの変化を追っかけたりしてる。確かにいずれはECでもそれは実現できるだろうが、実はECではリアルショップと比べてまだまだ絶対的に負けている部分がある。
それは①売場が立体(3次元)であるがゆえの品揃え可視化と、②陳列の自由度だ。
現行のオンラインショップの形態では、リアル店と全く同じ商品構成であっても品揃えが見えずらい。陳列と奥行き、VP(ヴィジュアルプレゼンテーション)がないからである。
リアル店舗では、商品の並べ方を工夫するだけで、素敵なライフスタイルやアウトドアシーン、その商品の使い方すら見えてくる。それはリアル店舗の什器や店内のしくみが、ECのように枠に嵌められておらず、マーチャンダイザーや店頭のスタッフが意図した順番、意図した間隔、意図した高さに商品を陳列できるからだ。そしてコーディネートのVPも近くに展示できるからだ。

リアル店舗の陳列を伴った商品(品群)訴求は『カセット』と呼ばれる。


ECでは目的の単品を探すのは楽だが、品群による生活提案やスタイル提案は困難。

すなわち、今のECの枠組みは『モノ目的』検索購入者向けだ。
逆に商業施設内のリアル店舗の強みは、前述したライフシーン想像力喚起による衝動購買や派生購買だ。
この両者の機能が分離してしまい、相互に補えない状況が今の小売業のオムニチャネル施策の失策だと考えている。しかし、その概念を理解した小売業経営者にとってみれば、実はこの二つのメリットの統合はたやすいのである。
ECをリアル店舗型に近づけてゆく方法。そしてリアルの商業施設で、派生購買をさらに強化したり、目的に答える検索やレコメンデーションを強化する方法。いずれも今のテクノロジーでも十分に可能だ。その実例が少ない理由は、この両者の違いを明確に認識している小売業経営者が稀有だからである。

いかがだっただろうか?業務上で小売業の業務に関わっていなくても、一消費者として思い当たるフシはあった方も多いのではないか?
次回以降、この新しい小売パラダイムに対応するための手法、ビジネスモデル、そして新しい生活者マーケティングについて言及していきたい。

主席コンサルタント

樋口 進

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