インサイト 2017-05-23

ANKERの3,999円のスピーカーがAmazonで人気ランキング1位になる時代の消費価値観について考える:福島 江里奈

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週末ふらっと表参道から外苑前あたりを散歩していたら、こんなカフェに出会いました。

(出典:http://takeout-coffee.com/ratio-c/)

RATIO&C(レシオ・アンドシー)というブリヂストンサイクル株式会社が運営している、自転車のある暮らしを提案するコンセプトストアです。

公式サイトはこちら

特徴は、自転車を持って入店することができ、店内に自転車を置いて安心してカフェで一息つけること。休んでいる間に自転車が盗難される心配がありません。店内には、自転車がディスプレイされていて、その場でブリヂストンのカスタムバイクを購入することができます。自転車以外にも、タオルやステーショナリーや食器などのライフスタイル雑貨も取り扱っており、自転車と一緒に上質な暮らしを送るためのヒントを提案してます。また、店内でのコーヒーワークショップや、自転車の試乗会などのイベントを頻繁に開催しており、人と人が出会うコミュニティの場としても機能しています。

(出典:http://takeout-coffee.com/ratio-c/

ここまでは蔦屋書店の「本×雑貨×カフェ」のライフスタイル型ショップや、セレクトショップが店内にカフェを併設させるのと同じようなものかと思ったのですが、筆者が不思議に感じたのは、「ブリヂストンブランドが外からわかりづらくなっていること」です。

大手タイヤメーカーのブリヂストンのブランド力を前に出して、『ブリヂストンカフェ』としたほうが何の店かわかりやすい気がしますが、それをしない。なぜなのか。きっとこのショップの目的が「自転車のあるライフスタイルってかっこいい」と思ってもらうことであって、「ブリヂストンのお客様になってもらうこと」ではないからではないでしょうか。『ブリヂストンカフェ』という名前にしてしまったら本気の自転車、車好き、タイヤ好きの人しか入りづらくなって、そうでない人のハードルが上がってしまうと思います。

ブリヂストンがこんなことを考えて出店しているかはわかりませんが、ブランドは安心感と信頼であると同時に、本気度を表す象徴にもなります。「そこまで本気じゃない」「ある程度の性能があればいい」というビギナーからしたらブリヂストンの自転車は私には過剰品質と思われてしまうのかもしれません。ただ、そんなイメージを持っていた人でも店内に入ってブリヂストンのNEOCOTを実際に近くで見てみるとその価値に納得して自然と憧れを抱くようになる。そんなシナリオが想像できました。

「BOSEよりも劣っているのはわかってる。最初はそれでいい」

ちょっと視点は変わりますが、最近友人のSNS投稿で知ったスピーカーの話をします。
Amazonのデジタルオーディオ用スピーカー部門でベストセラー1位を獲得しているスピーカー「Anker SoundCore ポータブル Bluetooth4.0 スピーカー」です。価格は税込3,999円。なんとそのレビューの数は2773件(2017年5月22日時点)で、さらにその評価は5点満点中4.5点と高評価を獲得している大ヒット商品です。Amazonで2015年11月から取り扱いを開始していますが、現在もその人気は落ちていません。

(出典:「ASCII.jp」http://ascii.jp/elem/000/001/095/1095662/)

ANKERは2009年に元Google出身の若者数名によって創設された会社で、もともとポータブル充電器のメーカーとして有名になりました。このポータブルスピーカーのレビューで多いのは、「この価格でこれだけの音質が出れば満足」「BOSEと比べると劣るけど、このレベルが出れば快適」などのコスパに対する評価と、「最初の入りとしたら十分」「スマホのまま聴くより全然いい」などのポータブルスピーカービギナーの評価です。
オーディオ用スピーカーは2万円くらい出さないと買えないと思っていた人が、その4分の1の価格で買えるようになり、スピーカーで音楽を聴く快適な体験をすることで音質自体に興味を持ち始めるきっかけになっているのではないでしょうか。

今まで、オーディオ用スピーカーといえばとりあえずBOSEを買っておけば間違いないという価値観が主流だったとしたら、今は何を買えば良いかの判断はAmazonのランキングとレビューを見て、自分のライフスタイルにフィットする評価軸で判断するのが普通です。ANKERのスピーカーのレビューにも、「私はそこまで音質にこだわりがないからこれで十分」というニュアンスのレビューが多いのも印象的でした。

ライフスタイル重視な人に向けたブランドイメージの再構築

今の消費価値観の一つに「自分の生活に必要な機能だけを低価格で提供してくれる企業に好感をもつ」というものがあると思っています。その価値観に対応するのであれば、企業側は「こんなすごいものを作ったから見てください」というスタンスではなく、「きっとあなたが必要なのはこんなものですよね?」というスタンスで顧客と接点を作っていく必要があるのだと思います。コト志向が強い人にとって、モノは実現したいライフスタイルを達成するための手段なので、提案の仕方によっては新しくなにかを始めるときに自社商品を選んでもらえる可能性が高くなるのではないでしょうか。

最近、消費者の価値感に合わせて新しくブランドのイメージを構築してきたなと思う企業があります。スポーツブランドのデサントです。動きやすくて性別を問わないベーシックなファッションを提案する「DESCENTE BLANC」と都市生活をリデザインする健康的なライフスタイルを提案する「le coq sportif avant」はエフォートレス・ジェンダーレス・ヘルシーという今の価値観にマッチしており、従来のデサントのイメージと大きく異なります。

今までデサントの服をデイリーユースするという発想がなかった人に対して、スポーツシーンだけでなく、日常的にデサントを着ることを提案をしています。le coq sportif avantに関しては、ファッションだけでなく、カフェやヘルシー食材を扱うコンビニなどライフスタイル全般を展開しています。このように、共通の価値観を軸に商品を展開していくと新しいブランドの世界観が出来上がり、新しい顧客層にアプローチすることができるのではないでしょうか。

オムニチャネル推進チーム
アソシエイト・コンサルタント

福島 江里奈

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