インサイト 2017-02-21

大企業のオムニチャネルはなぜ失敗するのか?:樋口 進

higuchi

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オムニチャネルは時代のアダ花なのか?

大手小売業のオムニチャネル化が進まない。例えば、セブンイレブン・ジャパンとイトーヨーカ堂を抱するセブン&アイグループ。鳴り物入りで大規模な予算と前鈴木会長の名誉をかけたオムニセブン。結果は、鈴木会長が引退し、後任の井坂隆一社長が改革を引き継ぐという幕引きで事態を収集する結果となった。また海外に目を移すと、こちらも鳴り物入りでオムニを進めていたはずだったメーシーズの41店舗閉鎖という急降下が衝撃を与えている。
オムニ7&メイシーズ01

直近の主だった事例を引用したが、実を言うと小売業でオムニチャネル施策が奏功して成長軌道に回帰できた会社は現状はほとんどない
バズワードのように流通業界を席巻した「オムニチャネル」という言葉でありながら、その本来の意味を問いただすタイミングにきているのだ。

オムニチャネルは誰のためのものか?

コンシュマービジネスに身を置くものならば実感値があるはずだが、作り手・売り手主導の独りよがりなサービスや企画は、結局生活者には受け入れられないものだ。世の中ではEコマース(オンラインショップ)という販売方法は生活者に率先的に受け入れられて成長軌道をキープしている。その様子を見ながら実店舗の持つ小売業が停滞する販売力を補おうとして掲げたのが『オムニチャネル』戦略である。
セブンイレブン01

ここで一番に問題になるのは、企業が掲げたオムニチャネルが、『本当に消費者・生活者にとって便利で、かつ商品やサービスが魅力的で購買意欲を喚起するか?』ということである。
もちろん魅力とは相対的なものだ。すでにAmazonや楽天がある中で、近くにあるCVSの店頭で受け取れる…というのがどこまで魅力的であるか?
しかも、CVS店頭で現物を子細にチェックして、受け取るかどうかを決めてよいわけではなく、既に注文・支払済みのモノである。
現実を直視すると、この辺の消費者マインドについての予測知見が今の小売業には欠落している。20年以上前から小売業を支援してきた筆者の立場からすると、『何をいまさら馬鹿な…』という怒りの気持ちを止められない。
小売業の社員や役員は自分自身は買物をしないのか?Amazonや楽天やLOHACO、ZOZOで買わないのか?そう感じてしまう。もちろんそんなことはないはずであるが、大企業の枠組みの中で意思決定を求められると、消費者の気持ちは蚊帳の外になってしまうのだろう。

筆者が考えるオムニチャネルの失敗原因は以下の3つである。

① デバイスやチャネル間連携が薄すぎる。
② 展開チャネルと商品がマッチしていなさ過ぎる。
③ 日本的な縦割り組織が機能不全に陥る。

① デバイスやチャネル間連携の問題

結局のところ、デジタルとリアル(実店舗やアナログ媒体)が効果的に補完しあうには、どちらかが「主(正)」になりどちらかが「従」になるのが一番手っ取り早いはずだ。
仮にこの「主」を『先に接触するチャネル』と言い換えても良いだろう。
店舗を主にするならスマートフォンやネットはこれを徹底的に支援すべし。ネットを主にするならば店舗はこれを徹底的に支援する仕掛けである。そうだとすると、前述した失敗例の2社について言えば以下の構造だろう。

●オムニセブン
スマホが主で店舗が従。店舗がスマホの道具になるべきだった。しかし店舗は道具として十分機能しなかった。
●メーシーズ
店舗が主でスマホが従。スマホの店舗支援機能が脆弱だった。また店舗スタッフ側がそもそも支援など求めていなかった。

ということができるだろう。

② 展開チャネルと商品のマッチング

そもそもスマートフォンは万能ツールではない。コンパクトで便利だが、実は制限が多く、人によって用途を限定しがちな個人的なツールであり、汎用のメディアにはなりにくい。
考えても見るが良い。あなたはスマートフォンでどれだけのサイトやアプリを使いこなしているだろうか?PCをメインで使っていたころよりもスマホの用途は限定されているのではないか?LINEとメールとインスタグラムだけ、銀行&決済アプリとゲームだけ。旅行やチケットの予約だけ。…など、人によって異なるが本当にスマホだけで全て済ます人はいないのではないだろうか?スマホはPC以上に個人の道具なので特定の目的志向が強いのだ。

また、昔からある実店舗という重厚長大な装置(施設)も、同様に制限が多くて高コストなしくみである。しかし、これについては商品訴求力を強力に発揮できるチャネルである。
EC化率が品種によっては40%等に達しようとしているのは、単純に商品の魅力や機能がわかっていれば、買いに行く手間・持ち帰る手間が不要だからだ。不在がちの生活者は、CVS受け取りが便利なように思えるが、それは軽いモノ・嵩張らないものという前提である。CVSから自宅まで持ち帰る手間があるのは変らない。
反対にで6割以上の消費経済が実店舗で行われる理由は、その商品提案力や生活提案力によって、生活者が『時間消費』をしながら衝動買いを喚起されるからであり、ECだけでは商品の魅力が伝わらない・細かくチェックできない部分を補うからである。それぞれのチャネルに特性があるのだ。
そのような品種や顧客の買い方タイプにあわせて、適正チャネルへ在庫を振り分けるという考え方が残念ながら小売業のメンバーに浸透していない。

オムニチャネルの定義
オムニチャネル定義01

実店舗+ネットのオムニチャネルの組み合わせに、最も適した商品は、●耐久消費財、●高額品、●触ったり・試着しないと買えない商品、●持ち帰れない大型商品などである。これらは店舗に全量をストックするにしても、流通側の負担が大きい。それらの商品が実店舗ショールーミングで買えたら、こんなに生活者にとって喜ばしいことはない。
もしくは、拠点に取り寄せて、触れたり・試着できたら最高である。しかし、これには運用コストの問題が大きく立ちはだかるだろう。

③ 日本的な縦割り組織の問題

これは国内だけの問題ではないが、特に日本の大企業組織はトップのリーダーシップが弱く、各部署のトップを中核とした縦割り組織を形成している。一人の顧客との接点チャネル(デバイス)は部門に割られ、システム自体はIDによって横断行動を見るようになっていても、意思決定や権限は部署の壁に阻まれて分断されている。オムニチャネルにおけるトップのリーダーシップが発揮されれば、部門のファンクションがきちんと補完的に機能するのでOKだろうが、残念ながら日本の企業カルチャーはボトムアップ型であり、今の企業トップはオムニチャネル的な知見や発想法を持っていない。必然的に、全体最適化の方向へは向かわず、部門権益の奪い合いの様相を呈してしまう。
オムニチャネル化障害01

ここまでお話しした、店舗小売業、特に大手チェーンストアの抱える問題点は何もオムニチャネル戦略に始まったことではない。筆者が20年以上、小売業を観察している限りにおいて、労働集約型の従来のやり方を頑なに守りつづける姿しか見えてこなかった。この15年で、IT、デジタルやその他のイノベーションが劇的に進化し、人が仕事を奪われる事態が頻出してきているというのに。
しかし、期待もある。現在20代~30代の若い小売業の経営者には、そこに固執しないバイタリティのあるリーダーが育ってきていることだ。
筆者は、そこに大きな期待をして、未来の小売業が生まれてくることを祈り、支援したいと考えている。

主席コンサルタント

樋口 進

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