インサイト 2016-08-30

【前編】adidas Originals NMDが売り切れ続出!なぜ?:福島 江里奈

fukushima

インサイト(Insight) : 洞察、見識、知見

シンクエージェントでは、専門性の高い小売分野の知見から、日常のトレンドウォッチ、ファインディングまで、マーケティング、商品企画、販売、テクノロジーを横断する知見を日々公開していきます。皆様のご意見・ご感想などをぜひお寄せください。

「モノが売れない時代」と言われています。

企業のマーケティング担当者は、莫大なビッグデータから消費者インサイトを読み解いたり、消費者と一緒に商品開発をしたり、消費者アンケートを定期的に行ったりするなどあらゆる手法で消費者から支持されるモノ・コトを生み出そうと必死になっています。

そんな中で、毎月新作を発売し、売り切れが続出しているスニーカーがあります。

adidas Originals NMDシリーズです。

公式オンラインショップの口コミを見ても、「やっと買えた」「いつも売り切れている」など、買いたくても買えなかった消費者の気持ちが垣間見えます。

筆者もスペシャルサイトを見て、なんとも容易くNMDのファンになってしまいました。
スニーカーで2万円は完全に予算オーバーでしたが、サイトを見れば見るほど物欲は止まらず、新作発売情報だけは入手しておこうと、ひとまずメルマガに登録しました。

しかし、7月19日0時の発売から少し経ったその日の夕方にサイトを訪問すると、欲しいカラーとサイズは既に売り切れでした。希少性を出す為にあえて生産量を絞っていたのかもしれませんが、発売から1か月以上経った今でも、売り切れのサイズ、カラーサイズがある状態なので、追加投入を待って購入するファンが一定数いるのでしょう。

そこで、モノが売れない時代に、売れ続けているadidas Originals NMD人気の理由を、
消費者インサイトの4つの視点から考えてみたいと思います。

  1. “スニーカーがよく見えない”スペシャルサイト
  2. 「かっこいい!欲しい!」のモチベーションのまま購入まで
  3. 意外と効果的?!COMING SOONの威力
  4. 「買いたくても買えない」存在

今回は前編として1と2を取り上げていきます。

1.“スニーカーがよく見えない”スペシャルサイト

NMDには、公式オンラインショップとは異なる、『「限界無き都市冒険」を楽しむニューヨークと東京、2都市6つの物語』というタイトルのスペシャルサイトが存在します。

SnapCrab_NoName_2016-8-24_17-24-32_No-00画像出展元:https://www.wwdjapan.com/focus/special/adidas-nmd/13043

サイト内では、NMDのコンセプトを以下のように表現しています。

「限界無き都市冒険」をテーマにした「アディダス オリジナルス(adidas Originals)」の“NMD”。一定の場所にとどまらず、常にインスピレーションを求めてアクティブに暮らす人びとを着想源にした最新スニーカーだ。

そんなNMDのらしいライフスタイルを体現している、東京とニューヨークの6組の都市冒険者に密着しているのが、このスペシャルサイトのコンテンツです。

SnapCrab_NoName_2016-8-24_17-19-29_No-00画像出展元:https://www.wwdjapan.com/focus/special/adidas-nmd/13043

以下6組のスペシャルコンテンツ

【01:Cordell Murray】仲間を愛する街乗りメッセンジャー
【02:Ena Matsumoto】前進し続ける多才なファッションアイコン
【03:Steve Schneider】世界を飛び回るトップバーテンダー
【04:Hiroki Sarumaru】ストリートフードを愛し旅するピザ職人
【05:Kari Morris & Tyler Morris】ブルックリン・メードを代表する食のプロ兄妹
【06:YONCE】茅ヶ崎発、音楽に生きる新世代ボーカル

サイトの中では、商品細部までじっくり見れる写真も、スペックを記載した箇所もないです。
NMDは最新のテクノロジーを融合させて今までのシリーズにないフィット感とクッション性を実現していますが、技術面の優位性を取り上げた箇所もないのです。

NMDを愛用する6組の生い立ち、過去の経験、ライフスタイル、考え方など、あくまで個人の物語の中でNMDとの接点を組み込んだ読み物となっています。雑誌感覚で最後までさらっと読めるインタビュー記事のようなコンテンツです。

このサイトでは、個々の商品に興味をもってもらうよりも、NMDのスニーカー×ライススタイルのシーンを単純に「いいな」と思ってもらうことを意図しているのだと思います。
自転車×NMD、ファッション×NMD、仕事×NMD、家族×NMDなど、「NMDのスニーカーと一緒に生活を送るというコト」に憧れを感じられるサイトになっています。

NMDが人気の理由の第一に、このスペシャルサイトによるブランド・エクイティー(消費者の頭の中にあるブランドに対する一定のイメージ)の構築ができていることがあるのではないでしょうか。NMD×ライフスタイルのシーンをストーリーに乗せて紹介することで、『NMD=かっこよくて都会っぽいライフスタイルに合うスニーカー』というイメージをつくり上げることができているのだと思います。

商品のカテゴリ的にも、スニーカーとランニングシューズ境目がほとんどなくなってきている中で、高性能でスポーツと日常の両方のシーン合うというポジションを確立してきています。下の図では、スニーカー、ランニングシューズのポジショニングを表現してみました。

【スニーカー・ランニングシューズのポジショニングマップ】

図1画像出展元:ABCマートオンラインストア(http://www.abc-mart.net/shop/?sgender=d)
図表作成:シンクエージェント

消費者のブランドに対する相対的な好意度をプレファレンスと言いますが、それは主にブランド・エクイティー、価格、製品パフォーマンスの3つの要素によって決定されます。そして消費者のプレファンスをいかに得られるかが市場構造を決定します。価格、製品パフォーマンスは企業内の努力で設定、改良させることができますが、ブランド・エクイティーは競合との相対で決定してしまいます。消費者が購買行動をするときに軸とする価値観は何なのか、その軸の中で自社はどこに位置づけされているのか、競合に対して自社の強みと弱みは何なのかなどの点からポジショニングを確認する必要があります。

スニーカーブームでスニーカー・ランニングシューズカテゴリの競合が増え続ける中、より多くの消費者のブランド・エクイティーを築きあげ、消費者に受け入れられる価格で、高いデザイン性と最先端テクノロジーによるハイパフォーマンスのスニーカーを提供し続けることがこれからもNMDに求められています。

参考文献:森岡 毅、今西聖貴,『確率思考の戦略論』,株式会社KADOKAWA,2016年

2.「かっこいい!欲しい!」のモチベーションのまま購入まで

スペシャルサイトでは、ストーリーが最後までいくと、「VIEW MORE」のボタンが現れて、オンラインショップへ遷移するようになっています。

▼ページの最下部

SnapCrab_NoName_2016-8-24_14-50-59_No-00画像出展元:https://www.wwdjapan.com/focus/special/adidas-nmd/cordellmurray/14083

▼VIEW MOREの遷移先オンラインショップページ

SnapCrab_NoName_2016-8-24_18-44-27_No-00画像出展元:http://shop.adidas.jp/originals/NMD/index.cgi

スペシャルサイトからオンラインショップへの導線はよく見かけますが、このサイトでは通常の商品詳細ページではなく、NMDシリーズが並んだ商品一覧ページを設けており、そこにすべての物語を遷移させています。写真、商品名、価格、サイズの選択画面、カートに入れるボタンの要素しかない、いたってシンプルな作りです。

スペシャルサイトで、NMDを手にしたときのライフスタイルを想像させることができて、「欲しい!」と思ってもらえたら、オンラインショップでは購入に必要な最小限の選択だけでカートに商品を入れられるようになっています。

このときの消費者モチベーションとしては、商品単体ではなく、NMDの世界観やライフスタイルに惹かれているので、遷移先ではNMDシリーズを一目で比較できるようになっていて、「かっこいい!欲しい!」という気持ちが冷めないまま商品が選べるように工夫がされています。

一部オンラインショップで売り切れ商品もありますが、その場合は購入可能店舗の一覧ページへの導線を置いており、「買えなかったがっかり」は多少軽減されます。こういった、購買導線の工夫でストレスなく買い物ができることも、人気の理由の一つになっているのではないでしょうか。

いかがだったでしょうか?

次回は、

3.意外と効果的?!COMING SOONの威力
4.「買いたくても買えない」存在

のテーマで人気の理由を深堀りしていきたいと思います。

オムニチャネル推進チーム
アソシエイト・コンサルタント

福島 江里奈

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