インサイト 2016-06-08

ユニクロ&三菱商事 知られざる蜜月関係 : 山科 昌弘

yamashina

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ユニクロ&三菱商事 知られざる蜜月関係

「三菱商事」「ゴールドマンサックス」「マッキンゼー」
これら超一流会社とユニクロの間には、知られざる蜜月関係がある。
前回は、弊社代表の樋口から、ユニクロの定量調査 を発表した。今回は三菱商事との関係に焦点を当て、定性的にユニクロを紐解いていこう。

今後高い成長が見込まれる東南アジアの進出には、2つの進出方法がある。

①三菱商事のような商社と提携して現地子会社を立てるか
②現地の有力企業と提携して現地子会社を立てるか

①に関して、ユニクロと三菱商事の関係。この関係は比較的オープンで、業界でも知っている人は知っているだろう。下記に、その提携例をあげよう。

<①例>
UNIQLO (THAILAND) COMPANY LIMITED
www.uniqlo.com/th (タイ語)

2011年5月に、ファーストリテイリンググループと三菱商事が合弁で、タイにて設立した「ユニクロ」ブランドの販売会社。2016年2月末現在、バンコクを中心にタイ全土で30店舗を展開し、カジュアル衣料品の販売を行う。

PT. Fast Retailing Indonesia
www.uniqlo.com/id (インドネシア語)

2012年10月に、ファーストリテイリンググループと三菱商事が合弁で、インドネシアにて設立した「ユニクロ」ブランドの販売会社。2016年2月末現在、ジャカルタを中心にインドネシア全土で9店舗を展開し、カジュアル衣料品の販売を行う。

<②例>
Fast Retiling Philippines, Inc.
ファーストリテイリング・フィリピン

①②共に出資比率は、ファーストリテイリング:三菱商事(or 現地有力企業) = 75% : 25%となっている。もしかするとあなたは、この比率に関して、「三菱商事(or 現地有力企業)の出資比率が少し高すぎないか?」とお思いになられるかもしれない。しかし、 単純にそうとは言えない。その理由は、ユニクロの米国と欧州への進出の苦い失敗経験にある。

ユニクロの欧州デビューは、2001年の華々しいロンドンでのオープンに始まる。一時は21店舗まで拡大したものの、巨額の赤字を計上。一時、リージェント・ストリート店やオックスフォード・ストリート店など6店舗に大幅に縮小し、現在は10店舗となる。「ユニクロの商品の品質と、売場展開のノウハウ」があれば、間違いなく勝算があると考え大量出店したが、失敗したのだ。現在も成功の域には達していない。

一方の中国本土は、2002年に出店して以来、成長は順調だ。店舗数は、2016年6月現在、450店舗にまで拡大した。グローバルアパレルではその出自からして、GAPが米国、H&M・ZARAが欧州、ユニクロがアジアに強いという大まかな傾向がある。しかし、その傾向をすべてにまるごと適用できるわけではない。国によって所得はもちろん、衣服への考え方も違う。中国や台湾、韓国でウケたからといって、必ずしもタイやインドネシア、ベトナム、フィリピンでも成功するとは限らないのだ。そこで、米国や欧州への進出の苦戦を念頭にリスクヘッジをするため、三菱商事に現地習慣に根ざした出店フォローをお願いすることとなる。すなわち、ユニクロが三菱商事と組んで進出するのには、大きなメリットがあるのだ。

蛇足だが、柳井正の「次男」康治氏は、横浜市立大学を卒業後、三菱商事に入社している。英国駐在を経験し、2012年に三菱商事をやめ、ユニクロに入社。現在はゴールドマンサックス出身の「長男」一海氏と共に、ファーストリテイリンググループ執行役員に就いている。この関係性からしても、ユニクロと三菱商事は、今後とも大きな蜜月関係を築いていくことは間違いないだろう。

ユニクロはトヨタになれるのか?ビジネスモデルの大きな転換:①オムニチャネル化②価格の明示化③利益率の向上

ユニクロはビジネスモデルは、現在紛れもなく、大きな転換期に来ている。
そのキーワードは3つある。①オムニチャネル化②価格の明示化③粗利の向上である。

①オムニチャネル化
2016年4月19日から、全国約1万8600店のセブン-イレブン店舗でユニクロEC購入商品が受取可能になった。
今までは、人気ブランドとの新作コラボ発売日や、特売日のお買い得商品が欲しくとも、日中は仕事で忙しいという利用などで、店舗に寄れなかった。もしくは、寄れたとしても、レジに並んだり、買った商品を持って簡単に移動できなかった。また、ECで買っても、宅配指定可能日時は、仕事で在宅できない時間だった。そんな人にとって、全国約1万8600店もの店舗を持つ、24時間営業のセブンイレブンで、ユニクロEC購入商品が受け取れるようになったのは、非常に喜ばしいことであった。

②価格の明示化
2015年秋冬までユニクロは、積極的に「限定販売」をしていた。週末の新聞折り込みでの「限定販売チラシ」を配布を行うことで、集客を保ってきた。ユニクロは、「限定販売」をしなければ、ユニクロたりえなかったのだ。しかし今、その動きに大きな変化がみられる。

2016年春夏からは一転、「限定販売」を極小化している。この方針転換は間違いなく、柳井正の「鶴の一声」によるものと考えられる。今年の春先の経営会議で、柳井の以下のような言葉が怒号として飛んでいたのが容易に想像できる。

「ユニクロの従来のビジネスモデルは、『限定販売』と共に歩んできた。しかし、今それを見直す時が来ている。3年前までは上代¥3,990⇒限定販売時¥2,990だったジーンズを、今季2016年春夏からは上代¥4,990で売ろうとしている。あなたがお客様だったら、限定販売のない平日に、ユニクロで¥4,990を出してジーンズを買いますか?」
柳井の鶴の一声により、2016年春夏以降も、上代¥3,990でジーンズを販売することとなった。

その経営方針の転換の片鱗は、実は売場で見て取れる。2015年秋冬以降の品番のジーンズについて、商品価格タグの¥3,990の表記の上に、「¥4,990」の価格修正シールが貼られているものと、貼られていないものが混在しているのだ。これは、顧客に大きな混乱を招いている。その証左に、先日、筆者がユニクロ銀座店に訪れた時も、以下のような夫婦の会話を耳に挟んだ。

男性「価格POPには『MEN レギュラーフィットジーンズ ¥3,990』と書いてあるけど、ここにある『MEN セルビッチレギュラーフィットジーンズ』という商品は、¥4,990と書いてあるね。やっぱりセルビッチだと高いのかな…」
女性「ユニクロのジーンズに¥4,990出すのはちょっと抵抗があるな。¥4,990なら他のブランドのジーンズを見てから考えようか。」

結局この日、夫婦はジーンズを買わなかった。
実は、この『MEN セルビッチレギュラーフィットジーンズ』という商品は、『MEN レギュラーフィットジーンズ ¥3,990』の集約品番のうちの一つに過ぎない。すなわち、商品価格タグの¥4,990は誤りで、価格POPの¥3,990が正しいのだが、普通の顧客にそれはわからない。インバウンド顧客が多い銀座店なら、同様の誤解を、外国人顧客に招いていることだろう。

「限定販売」を極小化することで、商品価格タグと価格POPの相違表現は少なくなったかと思われた。しかしながら、以上のように、柳井の鶴の一声でジーンズの上代を上げることが急遽取り止めになったことで、「売場の分かりにくさ」の点で、また違った意味での商品価格タグと価格POPの相違表現の問題が発生しているのだ。

③利益率の向上
これは、上記「②価格の明示化」とも大きく関連することだが、「限定販売」の極小化により、「現場レベル」での利益率は向上している。ここで「現場レベル」と書いたのには、理由がある。世界的な原材料価格の高騰により、ユニクロが中国や東南アジア各国の工場から仕入れる、「商品仕入/製造コスト」は高止まりが続いているからだ。すなわち、現状では「MDレベル」では、利益率の向上ができないのだ。

「現場レベル」の利益率向上に話を戻そう。今までユニクロは、週末の「限定販売」のために、「限定商品」を優位置に展開変更してきた。そのため、売場の商品の展開場所を、週次で細かく修正していた。特に2013年以降、「限定販売」が「土日」⇒「金土日月」と変更されてからは、その売場の変更の期間の猶予も、「月火水木金」⇒「火水木」に短縮された。そのため、平日の売場変更人員も、休日の売場注力販売員も、大きく疲弊し、人件費も高止まりした。それは結果として、「売上増」という正の側面と、「人件費増」という負の側面を残してきた。

しかし今、ユニクロは方針を転換し、伝家の宝刀「限定販売」を極小化している。これは、筆者の感覚からしても、非常に大きな転換だ。これにより、週次での売場の変更人時も極小化され、週末への集客の偏りが是正される。そもそも、ただでさえ集客が見込める週末に、値引きをするのは粗利を毀損する。そこまでして、さらに集客を週末に偏らせるのは、「ゆっくりと余裕を持って選びたい」という顧客心理=ひいては顧客満足に反している。これでは「休日買い」需要のレッドオーシャンからは脱却しきれない。

前提として、「限定販売」という「特売の週末期間に、価格POPを差し替えて、商品価格タグとは異なる価格で販売する」という販売促進は、日本国内でもユニクロ以外の小売業でもほぼ見当たらない。ましてやグローバルスタンダードでの値引きの販売促進の表記は、「~% OFF」というものだ。しかし、ユニクロは「~% OFF」という表記での売り方は決してしない。戦略を一転して「限定販売」は極小化する中、「通常¥2,990⇒限定¥1,990」という値引きの仕方にはこだわり、一貫してブレていない。

ユニクロはトヨタになれるのか?その質問は、以下の質問に置き換えられるだろう。「ZARAやH&Mのような『超高速回転MD=売切御免』方式ではなく、独自の『少品種・多色展開の圧縮大量陳列・欠品極小化システム』を武器に、どこまで世界で戦えるのか?」
まずは目の前の試金石=「ホームのアジア制覇」を完全なものとしてこそ、その道は開かれるかどうか、決まることだろう。

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データアナリティクスチーム
コンサルタント

山科 昌弘

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