インサイト 2015-12-08

グローバル化する日本の誇るSPA ユニクロ【柳井正】の後継者は誰なのか:山科 昌弘

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(画像出典:THE WALL STREET JOURNAL, Associated Press)

柳井正。いわずとしれた、カジュアル衣料販売を手掛けるグループ会社「ファーストリテイリング」と、その完全子会社「ユニクロ」の代表取締役兼社長である。その資産額は2015年3月時点で、日本人トップの2兆4,000億円とされる。

現在、日本国内では緩やかな成長を遂げ、海外における売上は飛ぶ鳥を落とす勢いで成長する「ユニクロ」。
2015年11月現在で、海外ユニクロ事業の店舗数の合計が国内ユニクロの店舗数を超え、海外ユニクロ事業店舗数合計864店舗 > 国内ユニクロ事業店舗数844店舗となった。2015年8月期決算では、国内ユニクロ事業7,801億円(前期比9.0%増)、海外ユニクロ事業は6,036億円(前期比45.9%増)、グループ全体では1兆6,817億円(前期比21.6%増)の売上、営業利益は1,644億円(前期比26.1%増)を誇る。今期には、店舗数だけでなく、売上においても海外ユニクロ事業が国内ユニクロ事業を大きく逆転し、グループ全体で2兆円の売上が見えている。数値だけを見れば華々しいが、現在までの経営の歴史は徹底して厳しく、それはまさに柳井自身の人生哲学そのものでもある。

柳井は、2016年2月7日には67歳を迎える。
過去に、現「ローソン」代表取締役兼社長である玉塚元一氏に、3年ほど経営を任せたことがある(2002年11月~2005年7月)。しかし、それ以外の期間、柳井は常に最前線でトップダウンの意思決定を行ってきた。

だからこそ、「ユニクロ」の成長も、柳井が経営者としての寿命を迎えた時に止まると目され、社長交代こそ最大の経営リスクと言われている。かねてから、「後継者の世襲は絶対にない」と宣言してきた柳井。しかし、中途採用した執行役員の殆どが柳井の元を去る。そのことから「ぼくは(後継者/部下を)育てる能力がないのかもしれない。しかも時間がない」とも発言している。

柳井の後継者、それはいったい誰なのか。

あまり知られてはいないが、柳井正には二人の息子がおり、その二人の経歴は実に華々しい。

「長男」一海氏は、ボストン大学大学院でMBA(経営学修士)を取得後、投資銀行大手のゴールドマン・サックスに入社。花形の投資銀行部門で働いた後、ファーストリテイリング完全子会社「リンク・セオリー」に入社。女優・萬田久子の内縁の夫だった故・佐々木力社長が死去したのち、「リンク・セオリー」社長兼 ファーストリテイリング執行役員を務める。(「リンク・セオリー」は、元はアメリカの高級婦人服ブランド)

「次男」康治氏は、横浜市立大学を卒業後、三菱商事に入社。英国駐在を経て、2012年に「ユニクロ」に入社し、グローバルコミュニケーション部に配属。現在に続く、世界No.1テニスプレーヤー「ノバク・ジョコビッチ」とのスポンサー契約を締約する。現在は「長男」一海氏と同じく、ファーストリテイリング執行役員を務める。

柳井の性格からして、「後継者の世襲は絶対にない」という前言を撤回することは有り得るが、おそらくはその可能性は半分の50%は行かないだろう。柳井自身も、息子2人の優秀さについては認めている。ただ現状は、「すごく、すごく優秀なわけではない」と、優秀止まりであるとの認識をしているようだ。(2012年時点)

では、より後継者になる可能性が高い、世襲ではない、上席執行役員5人を見てみよう。

一人目は、大苫直樹氏。1981年税務大学校卒。福岡国税局から福武書店(現ベネッセホールディングス)を経て2001年に入社。性格は温和だが、柳井を尊敬し、柳井の考え方を最も体得している、側近中の側近。現在は中国以外のアジア地域担当。

二人目は、堂前宣夫氏。1993年東京大学大学院・電子工学修士課程修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て1998年に入社。沢田氏、玉塚氏と共にフリースブームをつくり出した。堂前氏は柳井に真正面から議論を挑むほど鼻っ柱は強い。柳井と衝突したことは1度や2度ではない。2007年には柳井と衝突してユニクロを去ったが、3カ月後に戻った。欧州・米国事業、グローバルマーケティング部門担当。

三人目は、柚木治氏。一橋大学経済学部卒。伊藤忠商事、米GEキャピタル・コーポレーションを経て、1999年ファーストリテイリング入社。事業開発部長、野菜事業の立ち上げ・清算、マーケティングや人事の執行役員などを経験し、2008年より「ジーユー」を社長として一から立ち上げる。7年で年間売上1,500億円弱(前期比31.6%増)を達成し、赤丸上昇中。

四人目は、中国人の潘寧氏。北京出身で、日本の大学・大学院卒業後、1995年ユニクロ入社。店長、生産部門、事業開発などを経験し、ユニクロの中国事業、香港事業を立ち上げ、現在まで代表者を務める。
グレーターチャイナ(中国・香港・台湾)の売上が、3,044億円(前期比46.3%増)という非常に高い伸びを見せており、こちらも赤丸上昇中。

五人目は、中嶋修一氏。1987年関西学院大卒。ダイエーを経て1994年に入社。MD(商品政策)を一手に担う。ユニクロ商品の品質、ブランドの心臓を司る。

今までは、一人目の大苫氏と二人目の堂前氏が、性格は正反対ながら、他から一歩リードしていた。しかし現在、柳井の性格からして、一度野菜事業で大失敗した後に、セカンドラインとも目されるジーユー事業において大きな成功を収めつつある、三人目の柚木氏も候補に入るであろう。加えて、柳井はかねてから「次の社長は日本人とは限らない」とも公言しており、成長著しいグレーターチャイナを軌道に乗せた、四人目の潘氏からも目が離せない。

ただ、ここからは私一個人の見解であるが、二人目の「堂前氏」が有力なのではないかと思う。理由は2つあり、性格と、担当領域の面だ。

一つ目の理由の性格面では、確かに柳井の方針を完全に理解し、それに忠実に応える力を持つ大苫氏が後継となるのも非常に良いだろう。しかし、飽くなき成長を目指し続ける野心と、一度衝突して会社を去った過去もあるほど強い信念と自己主張を持ち合わせているという点で、柳井の深い部分での経営哲学に近いのは、実は堂前氏の方なのではないのかと思う。

また、もう一つの理由の担当領域の面でも、これからグループ全体としても重点的に注力していくEC事業の方で、堂前氏が最も力を発揮するのではないかと思われるからだ。

現在依然として、国内ユニクロのEC化率は5%に留まる(324億円)。ただし、前期比27.9%増と高い伸びを見せている。アメリカのEC化率は、日本国内より進んでおり15%程度と言われる。柳井はなんと、この2-3倍の数値である30-50%のEC化率を5年程度で目指すと、2015年8月期決算発表の場で宣言した。これは毎年、前期比40%超の成長をしていかなければいけない、非常に高い目標値である。

しかし、それが絵空事で終わらせないことを示すかのように、IT領域に強みを持つコンサルファーム「アクセンチュア」と共同で、戦略子会社「ウェアレクス」を9月に立ち上げたばかりだ。それをドリブンするのに最適なバックグラウンドを持っているのが、堂前氏ではないかということだ。大学院時代は「電子工学」を学んでおり、ファーストキャリアを「マッキンゼー」というコンサルファームで選択した。そのことで、コンサルと連携した、実務的なプロジェクトの動かし方をよく知っていると思われる。

全貌は明らかになっていないが、リアルとデジタルのシームレスな最先端の買い物体験。それをユニクロは、日本国内はもちろん、世界で最も早く構築しようとしているのかもしれない。5年後のEC化率を30%とする、非常に高い目標値。この数値を達成するためには、今までのECの延長ではなく、物流まで一気通貫した大改革となる。

現在、有明に敷地面積約3万6,300平方メートルの大規模物流施設を新規建設中で、来年の春頃に稼働を開始する予定だ。これこそが、まさにEC化率を30%超まで引き上げる自信の裏付けとなっているのだろう。これにより、即日配送サービスを提供する予定だが、秋冬にはこの有明を舞台にした「デジタルフラッグシップストア」を展開する予定であることも明らかにしている。

また、ユニクロは海外でネットで購入した商品を店舗で受け取れるサービス「Click&Collect」を提供しているが、インターネット販売の約20%〜30%の割合で利用されていることも明らかにした。このようにユーザーの選択肢を広げるサービスの提供も進んでいき、2016年は様々な展開が見込めそうだ。

これらの改革により、販売機会ロスをなくすことに成功したユニクロと、その他企業との差はますます広がってしまうのか。そうならないよう、その他企業も恐れずリスクを取ってほしい。具体的には、様々なベンダー・ベンチャーと手を組み、イノベーションを生み出すことを期待したい。

データアナリティクスチーム
コンサルタント

山科 昌弘

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