インサイト 2018-07-09

激しさを増すファッションモール戦争【第三回】 ~日本のSPAはZARAと何が違うのか?:樋口 進

higuchi

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第一回ではオンラインモールの消耗戦的なクーポン合戦、第二回ではリアルモール全体構成の課題を取り上げた。第三回にはいって、いよいよ話は深い内容になってゆくのだが、異業種の方には細かすぎるかもしれない。なので、以下、業界構造を『スペースオペラになぞらえて』図解してみた。映画の人物相関図的に見れば……まあこんな感じである(笑笑)。

さて、
ここで第一回の議論に再度立ち返って、今後のファッション企業の選択肢リストを再掲載しよう。

  • SPA(商品ブランド)絶対主義を守るのか?
  • オンラインモールはアウトレット機能、直営ECや店舗はプロパー販売機能、…とチャネル分離する?
  • 再びかつての卸ビジネスを検討すべきではないか?ラックジョバー型サプライ。
  • 小売の領域を守るのならば、服を売るのか?生活を売るのか?はっきりさせるべし。
  • 服を売るならアイテム集積とそのグルーピング=編集力
  • ファッション啓発とトレーニングをやらないと服は売れない。
  • 生活を売るのなら、サービスミックス。自前主義では限界。

どれもファッション業界人にとって重いテーマである。
主たる課題ジャンルは、
①商品(MD)と生産背景、②販売チャネル・販売形態、そして③消費価値変化に対応するサービス形成、という三つだろう。しかし業界違いの読者にはなんのことだかわからないかもしれない。
まずは①を実際の企業を引き合いに出して説明しよう。

今、実SCやオンラインモールで起こっていることの根源を読む。

第二回でショッピングセンターと専門店チェーンの足跡を概観したが、現在のファッション系小売のベースになっているのは米国や欧州に習ってスタートしたSPA(小売とメーカーを一つの会社が兼ねること)であり、メーカーと小売業という分業体制を止めたことにある。川上から川下への垂直統合は事業会社にとっては粗利益率を大きくしやすい。その反面ファッションのようなシーズンの需要予測が難しい商材の場合は、在庫ロス、マークダウンロスのリスクを一社が背負い込むことになる。

読者も実感していると思うが以前と比べてファッション商品の市場価格はは大きく下落している。経済界や金融界が『デフレ継続』と表現する商品単価ダウンだ。ただ、食品業界や日用品・消耗品業界とデフレの構造がかなり違うのだ。ファッション業界においては、全く同じ商品の価格相場が下がっているわけではない。一般に家電や生活用品の単価ダウンは製造技術の高度化やロット拡大によって、製造原価自体が下がることによって実現する。しかし、ファッション商品は品番も生産拠点も製品仕様も毎年異なるものが発売されているので、同じ商品が年々安くなっているわけではないのだ。
ファッション業界の場合のデフレは、安価な生産拠点への振り替えやロット拡大も一因ではあるが、実はモノ自体が安くなったというよりは、『安いもので十分』『高いものに価値を感じない』『生地は天然繊維よりも化合繊の方が自然に優しい』『ラフでカジュアルな作りがお洒落』という消費傾向が強まったのが背景である。品質やモノに対する消費マインドが変化したことによるのだ。

メンズのテーラードジャケットを思い浮かべて欲しい。特に春夏商品では昔の重厚な作り方のジャケットは今は非常にすくない。芯地ははいっておらず、素材も機能性重視でウール率は低く、化合繊中心だ。古い言葉で言えば『アンコン』である。ものによっては『シャツジャケット』だ。そのおかげで、かつては4万円台が平均的価格だったジャケットの平均単価は1万円台になった。夏の職場ではネクタイ姿を見ることも少なくなった。営業担当以外はカジュアルで十分なのである。

日本のSPAの特技と特徴

このようなファッション市場のカジュアル化現象には良い面もある。
単価が下がった分、市場がマス化して、数量(ユニット)ベースでは販売ロットが拡大することだ。悪い面は顧客の商品選択における価格限定が強まり過ぎることである。
これをポジティブに捉えるならば、商品企画力や提案力が弱い企業でも、品質や耐久性・洗濯性能が高いベーシックな商品をただ安くするだけで商売になるということだ。ファッション企業の真骨頂である、デザイン力やトレンド予測力や消費者への提案力はいらないのだ。生産背景とSCM(しくみ)の勝負になる。これはファッションセンスがなくてもできる。良い意味でも悪い意味でもしくみビジネスになるということだ。

実は日本国内出身のSPAは大別すると二種類だ。

①UNIQLOタイプ
ベーシック商品の機能性や品質・洗濯性能を高めて限りなく廉価で販売するタイプ。シーズン末のマークダウンはあまりしない。シーズンを横断しての継続品番も多い。

②ブランド&セレクトタイプ
トレンドやシーズン独自のデザインを打ち出し、販売価格は高めで原価率は低いブランド。トレンド商品のはずれや売れ残りが発生することを前提としており、値下げをしても利益が出る価格設定をしている。前提はそのシーズン内で商品を全て売り切ることである。

かつての、メーカーと小売りの分業体制において、
メーカーは複数小売に在庫を下すことでリスクヘッジを図り、小売りはリスクが大きそうなトレンド商品は小ロットでメーカーから仕入れてリスクを回避してきた。
しかし、垂直統合型の場合はこの手は使えない。

全てのリスクを自社が負うことになり、正価で売れれば高い利益率、売れなければどんどんマークダウンして売り切るしかない。もちろんマーチャンダイザーは商品の特性を踏まえて仕入れをコントロールしようとするが、製造原価を下げるには大量発注が前提となるため、ついつい作り過ぎる傾向は否めない。
そもそもの値入率の高さに胡坐をかいている傾向も見受けられるが、このファッションSPAのいびつな原価構造は、恒常的な店舗コスト(家賃や店舗物流や販売人件費)を背負いながら、売れ筋がシーズン(半期)を超えて継続しない!…ことが大きな原因だ。

平日の昼間のファッション店の売場を想像してみよう。顧客がいない時間が全体の7割でも、家賃と販売スタッフの給与は常に発生する。EC専業に比べるとその分の店舗コストを購入客が負担しているのだ。
とは言え、原価率3割未満とかは、プロパー価格で買う顧客を騙しているとしか思えない価格設定だ。値下げによる在庫処分のロスを、定価で買う顧客に転嫁しているに過ぎない。ファッション業界で40年以上続く『悪しき構造』である。

日本のSPAの多くがグローバルで勝てずに撤退する理由。

ここで、グローバルでトップレベルにある成功しているSPA型企業を見回すと、
ファーストリテイリングのUNIQLO、米国のGap、そして欧州の雄インディテックス社のZARAなどがある。
UNIQLOはご承知の通り、グローバルで成功している日本の数少ないSPAである。

が、これらと比較するとそれ以外の日本のファッションSPAは残念ながら出店とMD拡充の踊り場を迎えており精細が無い。
日本のSPAで成功してる企業はベーシックMD、海外勢ではファッショントレンドMD。日本のトレンド型で海外進出して成功した事例は非常に少ない。これはなぜなのだろうか?ここにはファッション市場とSCMに通じたコンサルタントや事業家でないとわからないメカニズムが働いている。
まずは、前述した三つの業態(運営会社)の比較表を以下、掲載しておこう。

この比較表はこちらにダウンロードページ を用意した。活用されたし。
というところまでで、紙数が尽きてしまった……なのでこの詳細は次回!
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主席コンサルタント

樋口 進

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