インサイト 2018-01-30

ランドリーカフェもシェアオフィスも『時間価値向上』がキーワード:山居 菜穂絵

yamai

インサイト(Insight) : 洞察、見識、知見

シンクエージェントでは、専門性の高い小売分野の知見から、日常のトレンドウォッチ、ファインディングまで、マーケティング、商品企画、販売、テクノロジーを横断する知見を日々公開していきます。皆様のご意見・ご感想などをぜひお寄せください。

先日、郊外のショッピングセンターの駐車場に車を停めると、作業着を着た若い男性が駆け寄ってきました。「お車を拝見した時からお声をかけようと思っていました、素敵なお車ですね。」とにこやかに語る姿に警戒感がよぎったその時に、「よろしければお買い物中にお車を手洗いでピカピカにしておきます!」

得したのはお金よりも「時間」

声をかけてきた男性は出張洗車サービスのスタッフでした。埃だらけの車は彼にしてみればとても素敵に見えたことでしょう。車はその場に停めたまま料金先払いというシステムで、買い物を終えて戻ってみたら本当にピカピカになっていました。その時に筆者が感じたのは「得したな」ということ。
洗車機では落ちなくなった汚れが1000円台できれいになったというコスパの良さももちろんですが、得したと感じたのは「時間」でした。わざわざガソリンスタンドに行かずに、買い物をしている間に車がきれいになったことで、時間を有効活用できて得した気分になったのです。


コインランドリー併設コンビニにも同じようなお得感を感じます。洗濯・乾燥している間に店内で買い物をしたり、イートインで休憩もできるファミリーマートの新業態で、3月に1号店をオープンし、今年中に100店舗、2019年には500店舗に拡大する計画だとか。
上記の出張洗車はショッピングセンターの集客力をサービス販売につなげましたが、こちらは目的性の高いコインランドリーでコンビニへの集客を狙ったものです。どちらにも共通しているのは一か所で複数のことができ、生活者の限られた時間の価値を高めるものだということです。

コインランドリーの進化にみる時間価値の高め方

「コインランドリー」は、ここ数年サービス業の中で最も売上を伸ばしている業種です(※)。最新の大型機器で1週間分の洗濯・乾燥が1時間程度で済み、布団やカーテンなど大物も洗って持ち帰れる、といった点が、時短意識の高い働く女性たちの支持を集めています。
さらにはスマホで空き時間の確認や運転終了のメール通知ができるサービス等も始まっており、「待ち時間を無駄にしたくない」というニーズへの対応はいっそう進んでいます。(※日本経済新聞社「第35回サービス業調査」による)

時短を訴求する施設が増える一方で、昨年は「WASH&FOLD」や「フレディレック・ウォッシュサロン トーキョー」などオシャレ過ぎるコインランドリーが話題を集めました。施設により違いはありますが主なオシャレポイントは以下の通りです。

①個性的なショップやギャラリーが集まる高感度住宅街での展開
カフェスペースを設け、音楽や内装にもこだわった居心地のいい空間作り
③エコ洗剤や洗練されたランドリーグッズを販売するランドリーセレクトショップ機能
④環境に配慮した洗剤や水洗いを導入し、洗濯・乾燥・たたみを行うこだわりの洗濯代行
⑤ワークショップやイベントによるコミュニティ作り

こうした付加価値は施設への来店目的性をさらに高め、洗濯している間のすきま時間に本格的なコーヒーを飲みながらくつろげるという点が新鮮に映りました。結果として、コインランドリーユーザーではなかった人たちの来店も促進しています。「そこに行けばリラックスした豊かな時間が過ごせる」と思ってもらうことがポイントなのです。

シェアオフィスの快適環境追求が止まらない

住宅街でコインランドリーが話題になる一方、都心のオフィス立地で注目を集めているのがシェアオフィスです。「コワーキングスペース」とも呼ばれるこの業態は、テレワーク制度を導入する大企業から、スタートアップ企業やフリーランスまで利用者を広げ、不動産大手の参入も目立ちます。
米国シェアオフィス大手の「WeWork(ウィーワーク)」も、ソフトバンクの出資を受け2月には六本木アークヒルズに日本第1号オフィスを開設します。同社は商業施設である「GINZA SIX」内での開設も決まっており、一気に日本のシェアオフィス市場を席巻しそうな勢いです。


シェアオフィスの認知度が高まり競争が激化しつつある中、様々な付加価値サービスで差別化を図り、利用者を囲い込む動きが顕著になってきました。集中とリラックスが可能な空間作りやIT環境の整備は当然ですが、それぞれのターゲットの潜在ニーズへの対応が進んでいます。昨年末から今年にかけてオープン(予定も含む)したシェアオフィスのサービス事例を見てみましょう。

シェアオフィスサービス比較表

政府による「働き方改革」では労働時間の短縮に目が向きがちですが、ここでは「働いている時間」をいかに快適に効率的なものにするか、を重視しています。企業にとっても個人にとっても「ストレスフリーで生産性を高め」「時間価値を向上させる」ことが問われているのだと思います。

商業施設に求められるのは「ワンストップエクスペリエンス」

そこに行けば必要な商品がなんでも揃う「ワンストップショッピング」は大型商業施設の最大のアピールポイントでした。ところが生活者の関心がモノからコトへと移行する中、出店数は伸び悩み、集客力にも陰りが見えてきました。新たにオープンする商業施設のテナント構成も物販を減らし飲食やサービス比率を上げる方向に動いています。

さらには、施設丸ごと業態転換の動きも見られます。アトレはショッピング施設としては衰退の一途をたどっていた土浦の駅ビルを、サイクリストのための施設「PLAYatre」に転換し、3月にオープンさせることを発表しました。
サイクリングコースの玄関口という自然に恵まれた立地を生かし、初心者から上級者までのサイクリストのための様々なサービスを提供し、フードマーケットや宿泊施設も順次オープンする予定です。モノはなるべく売らずに「コト消費型駅ビル」を目指すという位置付けだそうです。

無駄な時間を嫌い、自分にとってプラスになる時間の使い方を求める生活者が増えるにつれ、何でも揃う大型ワンストップショッピング施設が、逆に「広くて疲れる」「自分にとっては無駄なものまで見ることになる」というデメリットに感じられているのは皮肉なことです。
規模は大きくなくても、居心地のいい空間、厳選された品揃え、自分のニーズに合ったサービスの集積があり、そこに行けば時間価値が高まる体験ができると思ってもらえる「ワンストップエクスペリエンス」施設こそが今後の商業施設の在り方なのかもしれません。

山居 菜穂絵

バックナンバー


関連記事