インサイト 2017-11-16

【第1回】変革を迫られる日本の商業空間~コト市場を形成できなければSCは滅びる~:樋口 進

higuchi

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先日スマートスピーカーを手に入れた筆者と彼との会話。
筆者:   OK!Google!SC(ショッピングセンター)って何!
Google: ショップの集積体(construction 0f Shops)だね!
……あーなんてシンプルな答えだろう!

今回、何回かに分けて連載しようとするテーマ(タイトル通り)はこんなにシンプルではない。
日本におけるショッピングセンター(SCと略される)の歴史は大河ドラマであり、山あり谷あり涙ありの抒情詩・叙事詩だ。
しかし、はじめて聞く人にとってみると『おとぎ話・寓話』のように聞こえるだろう。
それでも良い。新卒から小売業コンサルタントの道に入り、40年近く見続けてきた生き証人として語ってみよう。

日本ではフリースタンディング店舗が乱立するロードサイド銀座がまだまだ多数
画像出典元:テンポスマート(http://www.temposmart.jp)

筆者がSCの企画・開発に参画したのは80年代の後半。
かつてSCの開発と言えば、イオン、IY(イトーヨーカ堂)、そして百貨店、カテゴリーキラー、大手ディスカウンター等の大型店が主導で、テナントを集めるという形態が主であった。
そもそも1973年に設立された大店法というものもあり、小売業者と既得権業者、住民との調整という観点で出店が制限された時代が2000年まで続いた。
その時代はこの大店法のすきまを掻い潜る、150坪型の単独ロードサイド店舗(現在の青山商事やUNIQLOなどはここから生まれた)というのも躍進した。
それがいつからか大手不動産会社、ゼネコン、自治体のエリア開発担当、交通インフラ提供事業者、宅地開発事業者などの『非小売事業者』が中心になるようになった。

このころから開発に関する温度感が大きく変わったという気がしている。
SCは行政のばらまき・企業誘致や地域開発や不動産ビジネスの目玉ツールとなり、その中身の商業は『箱が計画されたあとで考える』という手順が定着してきた。何のために作るのか?はあまり問われず、関係者が儲けるために作る…という温度感に変わってきたのだ。
しかしちょっと待て??箱を創る?…その箱ってなんだろう?

オーソドックスなSC類型

SCビジネスは住居不動産ビジネスや法人不動産ビジネスとは根本的に異なっている。住居や法人オフィス、工場であれば、立地に対して家賃の納得性があれば商談が成立するビジネスだ。家賃を払うのは、借りる当事者である個人や法人だ。
しかし商業は違う。
借りたテナント法人は儲からなければ撤退する。そして儲かるかどうかは立地だけでは決まらない。その施設全体が魅力的で、遠方の商圏の生活者を呼び寄せ、またリピートする気持ちになるかどうか?お金を落とす気持ちになるか?それは各テナントの力だけでは決まらない。館全体の問題である。

米国では収益が成り立たずに営業停止=廃墟となったSC数は数千オーダーに及ぶ。
国内でも話題になって再生てこ入れをはかったピエリ守山などほんの序章に過ぎない。
これから数多くのSCが不採算で営業を停める時代がやってくるのだ。
そんな中にあって、大規模商業の企画設計を担える商業プランナーは数少なくて、少なくとも不動産企業の中には居ない。
百貨店の中にすら居ないのに、ましてやこの過当競争の時代である。従来型のありきたりのMD構成で人が呼べるというほど甘くはない。普通のサービス集積では消費は分散するだけだ。

一度廃墟化し、再生を果たしたピエリ守山
画像出典元:最新不動産ニュース「R.E.port」(http://www.re-port.net/)

商業施設が不足して買物難民を量産していた時代は終わりをつげ、店余り・物販余りの時代が既に訪れた。
日本国内の人口は増えず、消費も盛り上がらないのに、オリンピック景気の勢いにのって商業施設は増え続け、商業売場面積は15年前の2倍になっている。
常識的に考えて、①消費性向が高まる、②インバウンドの外国人による消費が激増する、の二点が起こらない限り、新しくできたSCの間で売上は分散してしまい、坪効率の水準は悪化してゆく。もちろん、店舗の場合そこにかかる運営効率を下げるなどの工夫の余地はまだまだある。しかし、10年前とさして変わらない商品ジャンル(新製品は出続けるが)を売り続ける限りにおいて、市場自体は拡大の見込みは小さく、SC同士テナント同士の食い合いになる。ここから10年でやらねばならないのは、ミクロレベルの商品開発だけではなく、従来のSCの機能を超える、生活者に対する全く新しい価値提供だ。

新規オープンSC面積とテナント数

出典:SC協会

日本の商業を支えてきたSCの岐路
このように市場の踊り場にさしかかった商業施設にとって今最も課題になっていること、そしてその処方箋・打開策はどこにあるのだろうか?
詳細は第二回にゆずるが、ここで課題を箇条書きにして次回に繋げよう。

現行SC開発上の問題点

●現在のSCは、物販と飲食テナントに偏り過ぎている。
●安易な大規模テナント導入に依存しし過ぎて、テナントMIXやブランドMIXによる付加価値生成を蔑ろにした。
●商業面積が大規模化しているのに、売場をゾーニング(わかりやすく区分)しようという努力を怠った。
●そしてテナント側は、囲い込みという論理で生活者の購買(お買い物)マインド・館全体でのおもてなしを軽視し過ぎた。
(なぜショップとショップの間に壁があるのか?なぜ、『ライフスタイルショップ』というお題目の元に、広大なSC内に同じアイテムが散在してるのか?)

そしてこうなってしまった背景……
SCは小売業とは別の観点で作られている。実際に企画は全て外部業者に頼っているのが実情だ。

その背景に横たわるもの
●SCは集客装置という考え方。いつの間にか消えてしまった顧客への価値提供概念。お客は何が嬉しくてお店の集合体に来るのか?
●飲食ゾーン、食物販ゾーン、それ以外 という発想しかない。あとは良い場所に家賃を払える人気テナントが来るという法則。
●マーチャンダイジングという発想欠落。生活者オリエンテッドではなく、単なる店揃え・ブランド揃えになっている。
●20年・30年続ける商業施設を、話題性やコンセプトだけで企画開発してしまう愚かしさ。
●かつては街として必要な機能を考えていた時代から、売上ランキング至上主義のリーシング(テナント選定)へ変わってしまった。
●そのために、面積がただ広いだけのSC、ワンストップショッピングの利便性からは著しくかい離したSCが増加。

いかがであろうか?この列挙された項目の中に、一つでも心に刺さるものがあるのであれば、ぜひ次回もご覧いただきたい。
次回は、読者の中に多いであろう、オンラインモール・ECやデジタルマーケティングの話にも言及したい。

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主席コンサルタント

樋口 進

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