インサイト 2017-10-18

ニトリVSイケア 次世代インテリア業態を担うのは誰か?:樋口 進

higuchi

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首都圏インテリア戦争の行方はいずこ?

ニトリの都心商圏出店の勢いが止まらない。
現在の都心型店舗は、渋谷、新宿タカシマヤタイムズスクエア、東武池袋、マロニエゲート銀座、赤羽、中目黒、、アトレ目黒、オリナス錦糸町、グランディオ鎌田、上野マルイ、デコホーム東急東横、Expressサンシャインシティ、等…破竹の勢いで出店を加速している。展開業態もデコホーム、ニトリExpress、ニトリの三業態を抱し、ショールーミングやECへの取組みも積極的だ。

一方で外資の雄、IKEAは、東京ベイ、新三郷、港北、立川など大型店中心の絞り込んだ出店。しかし、ライフスタイルや部屋づくりそのものを展示し、倉庫型在庫のセルフ持ち帰りと通販で対応するという仕組みは、彼らの元々のコンセプトを堅持している。
さて、これらしのぎを削る首都圏の大型店舗のインテリア戦争で、勝ち残るのはどちらなのだろうか?


それを語る前に、まず国内のインテリア市場と業界環境をおさらいしておこう。
国内のインテリア市場は1兆404億円。これは家具、ファブリックアイテム、生活雑貨、さらにオフィスインテリア市場も全て含んだ数値だ。
消費財レベルで見ると、少子高齢化による新設住宅着工鈍化で、市場規模は減少の傾向を辿っているが、実はこの業界の再編構造は成熟産業のそれほど単純ではない。市場も商品サプライヤも流通業も激しく変化している真っ最中なのだ。
現在のインテリア業界のランキングを企業で見ると、ニトリ、良品計画、コクヨ、大塚家具、ナフコ、島忠、カッシーナ・イクシー、ミサワという企業が軒を連ねる。かつては、町の家具屋や金物屋などが市場の大部分を構成していたが、これらは上記の大手ナショナルチェーンにとっ代わられ、商店街でも見る機会が少なくなった。
そして、同様にこれらの大手チェーンを脅かすように成長してるのがEC専業メーカーや家具商社である。組み立て家具、収納家具、ソファなどを楽天・Yahoo等で通販展開するところからスタートし、現在はAMAZONなどにも進出してその勢いを増している。彼らはインテリアチェーンのSPA化に対抗して、ECを主チャネルとして成長してきた。これはかつて国内のアパレルメーカーが百貨店やFC店の店頭を支配してSPA化していった過程に酷似している。異なるのは、その展開拠点がオンラインであり、それゆえ武器としているのが、破壊的な低価格とトレンドキャッチの早さという二大要素であるという点だ。

昨今では、王道の家具小売・チェーンストアであるUnicoのミサワ社やアクタス社もライフスタイルを意識した新業態を相次いで開発。家電量販店(ヤマダ電機やビックカメラ)も、商品範囲拡充(ラインロビング)とライフスタイル提案を狙って、インテリアMDやリフォームサービスを大幅に拡充中である。また意外なところでは『家電メーカーの家具小売参入』がある。アイリスオーヤマや山善は、家電展開同様に非常にリーズナブルなプチプラ組み立て家具を展開。AMAZONなどの得意なチャネルを使って、徐々にその売上を伸ばしつつある。

AMAZONの家具カテゴリーにおける有力出品事業者

日本独自の消費構造、そして生活者変貌の加速

これまで、日本のインテリア市場は、特有の住宅の構造とそれに基づくライフスタイル、ライフステージ、世帯構成などに左右されてきた。
国内の個人住宅はかつてウサギ小屋と呼ばれたように狭く、世帯構成は様々(昨今は二世帯同居、シングルマザーやシングルファーザーも増加)、それゆえに部屋の使い方そのものがライフステージによって大きく変化する。米国の郊外のように敷地が広く、空き部屋を気にしない環境なら、たとえ家族のライフステージが変わろうとも、家具はそのままほっておけばよい。しかし、そもそも部屋数が少なくて、一部屋が狭い日本家屋では話が異なる。
国内(特に首都圏に住む)の家族世帯は、夫婦二人やカップル時代→子供が幼少のとき→こどもが成長したあと→巣立ったあと、というステージ変化によって、持ち家であっても住宅の使い方・部屋の構成、場合によっては間取りを変えてゆかざるを得ないのだ。

そんな事情ゆえ、かつて王道だった婚礼時に大物&高価な家具を全て取り揃えて、20年以上の長期スパンで同じもの使い続けるという消費スタイルは確実に変化してきている。生活や世帯構成の状況に応じて比較的廉価な家具を買い替えるというスタイルが増加しているのだ。
年齢の変化に加えて、婚姻年齢が広く分散するようになり、離婚率は増加。結果的に再婚率(二度、三度…)も増加している。
生活(世帯とライフスタイル)がどんどん変わってゆけば、高価な大物家具を長く使うという使い方はそぐわない。いつ離婚するやも知れない・再婚するかもしれない…という状況で大物高級家具は買いづらい。これらの状況がニトリ、IKEA、各社通販会社や楽天等の組み立て家具・お手頃家具の普及を後押しし、家具単価の平均値は大きく下落、その代わりに購入頻度が増加しているのもうなずける。

さらにここ数年のインテリアスタイルのカジュアル化やテイストの多様化+ミックスも、市場に一石を投じている。
北欧テイストブームに端を発するナチュラル&シンプル系インテリアに加えて、ブルックリンスタイルなどのヴィンテージ路線も加わり、家具のテイストはさらに多様化。そしてプリント技術や合板技術の進歩によって、あたかも無垢材に見える廉価合板素材やシート材が普及し、金属・プラスティック・木材・ファブリックの複合製品化を可能にしている。

最新のプリント技術でヴィンテージ感溢れる木目をリアルに再現


一方で生活者を振り返れば、かつては高級志向だった40代以上のアダルト層も、将来年収の不透明感や、経済の先行き不安、無くなる職務が多発する等の危惧をいだいている。それが、大物家具や大物家電への高額支出を抑えるフックとして働いている。また、家具業界においてはイームズ調などのデザイン家具が特許切れで安く手に入るようになったもの、低単価家具の浸透に追い風となっているだろう。
こうした生活者側と供給側相互の背景が絡み、プチプラ家電に次いで『プチプラ家具』と呼ぶべき市場が形成されつつあるのだ。アイリスオーヤマや山善などの、まさにプチプラ家電の急先鋒会社がこのプチプラ家具に取り組むのもうなずける話なのだ。

デジタル武装とオムニチャネル化での真向勝負

これらの市場トレンドと供給トレンドを絶妙に取り入れて、特に住居面積が狭く世帯構成変化の多い都心を狙った戦略を打っているのがニトリであり、IKEAの業態戦略だ。
しかもここにきて、デジタルマーケティングの進展により、家具のマーケティングに、オンライン販売とアプリ等の提供は必須の状況になりつつある。家賃の高い日本では、大型の完成品家具の在庫を全て店舗に配備すると坪効率と採算が酷く悪化する。そこでオムニチャネル施策を利用したショールーミングの出番だ。店舗は実商品を生活感豊かに表現するためのショールームと位置づけ、実際の在庫は倉庫型またはEコマースでの提供を行う。それが組み立て家具であれば、さらに保管効率と物流効率は高まる。IKEAはまさにこの方法を体現した店舗だ。
このように、都市生活者のトレンドキャッチ力やライフスタイル提案力の高い大型店舗の出店に秀でるIKEAなのだが、残念ながらデジタルに関するリソースが弱体である。IKEAのECサイトやオムニチャネルの実施状況を把握すると明らかだ。実店舗でのオペレーションも、ユーザーのスマホを使った商品チェックや情報収集をサポートしていない。これらが完備してくれば日本のユーザーが不慣れなウエアハウス在庫のピックアップに戸惑わせることもなく、確実に商品購入点数を増やせるはずなのだが…。
一方の国内発インテリアSPAの雄、ニトリは、ECの販売パワーを生かす方法で都市型店舗のショールーミング化を進行している。ニトリの公式スマートフォンアプリでは、メンバーズカードとしての機能の他に『手ぶらdeショッピング』や『サイズwithメモ』などのオムニチャネル支援機能が搭載されている。これを使えば、店頭で見た商品が仮に在庫が無かったとしても、その場でEC発注してデリバリー可能だ。筆者も使ってみたが、使い勝手や実際の商品運用に問題は残るものの、次世代のインテリア小売にはマストの機能と感じられる。そもそも車来店の少ない都心型店舗で家具を持ち帰らせるのはムリがある。どちらにしても配送になるのであれば、店舗に在庫を持つ必要はない。EC型の集中倉庫に在庫を集中させてクイック配送を目指すのが合理的だ。オーダーメードが必要になるカーテンなどのファブリック系はなおさらである。そして、これらインテリア業態の最後の理想は、VRによる家具体験で済ませて、商品在庫を全く置かないという手段だろう。生活者には自宅に最もマッチする家具を選ぶという便宜を図りつつ、物流コスト削減で商品価格を大幅に下げることが可能だ。

ニトリ公式アプリの『手ぶら de ショッピング』機能

このように、商品自体のサイズが大きく、自宅に配置するというシミュレーションが必要な家具品種は、最新デジタル技術やオムニチャネル化にもっとも向いた商品である。しかし、残念なことに、これら家具小売や新しい家具メーカーには、デジタルに通じた人材が不足し、データ知見も全く溜まっていないというのが現状である。低価格・
高頻度化という、新しい家具市場へと置き換わる環境化で、デジタル武装とオムニチャネル化の体制づくりが問われていると言えそうだ。

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主席コンサルタント

樋口 進

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