インサイト 2017-04-06

コト型消費~体験型消費は本当なのか?変わりゆく消費行動と小売業 その1:樋口 進

higuchi

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『モノが売れない時代!、コト消費への対応を急げ!』
…という様な記事ががメディアに取り上げられることが増えてきた。
2020年の東京オリンピックを睨み、ゼネコンや地域開発事業者は色めき立ち、首都圏はどこもかしこも赤と白に塗り分けられたクレーンの嵐である。その一方でニッポンの人口動態は急速に高齢化し、消費構造の変化にサプライヤー側が追いつかない気配。モノからコトへの消費シフト!という文脈はこの辺が発端であろう。
が、残念ながら今は言葉だけが一人歩きしており、その定義や構造がきちんと整理されていないと感じる。
今回はここにメスを入れて解き明かしていこう。

なぜモノじゃなくて『コト』だと言われ始めたのか?

『モノからコトへ』
このパラダイムワードは、実は数十年前から使われていた。そして消費停滞の理由づけをするキーワードとしてここ数年、より頻繁に使われるようになった感がある。その出所(でどころ)はどこにあるのだろうか?筆者が考える『コト消費論』の源流、背景は以下の7つである。

『コト消費論』の源流
① 東京五輪2020⇒インバウンド増大⇒外国人観光客のイベント消費増大
② デジタルマーケティングのUI・UXからきた『モノ自体よりも体験価値重視』の傾向
③ モノ余り・モノ飽和からきたモノの保有価値の相対的低下
④ 低成長+年収の低下と高齢化による生活の不透明感。⇒買わないで済ませよう志向
⑤ 震災以降に生まれた『家族』『近しい人』第一主義
⑥ SNS等のコミュニケーションにおけるリア充礼賛志向・インスタジェニック
⑦ 現在の若年世代~ファミリー世代共通の同調行動=イベント好き、集い志向

これらの出元の違う支流が交錯しながら流れ込み、今の時代の流れを作っている。
しかし、どの源流(ソース)から来たコト消費を狙うかによって、メーカーや小売業としての仕掛けはおのずと異なってくる。
いずれにしても、これらの認識そのものが立ち遅れており、低成長・デフレ環境・高齢化の三重苦市場を刺激するにはまだまだ不足の感は否めない。
ちなみに上記に挙げたコト消費の源流の中で、最も気にしなければならないのは、⑥と⑦である。それ以外については、影響の大小はあったとしても、いつの時代もそれなりに起こっていた現象だからだ。


ネット時代のコミュニケーションスタイルの変容は従来とはかなり異質だ。
今の生活者は以前の生活者のように、自分の持ち物やモノに対する造詣の深さ、感性の高さ、インテリジェンス等を自慢することはなくなってしまった。今の生活者が自慢したいのは、充実した生活であり、家族への自分の愛であり、発見に溢れたエキサイティングなオフショットの生活シーンなのだ。
その変化を生み出したのがSNSであり、インスタグラムに代表される画像によるネットコミュニケーションである。
かつての生活者はネットという自分アピールの手段を持っていなかった。なので自分スタイルの服を着たり、最新の家電機器や著名ブランドを買ったり、それらの蘊蓄を人に語ったりして自分を人に伝えた。今はそのアピールの対象が『生活行動の自撮り写真』に切り替わった。自撮り写真で所有商品をアピールするのはちょっと恥ずかしい。つまりそういうことだ。

コト型消費対応業態の種類

一方でコト消費対応を謳う業態も同様に十数年前から尻上がりで増えてきている。
しかし、そのいずれもが、商業施設に強力な集客力を付与するほどの力は持っていない。
以前であれば、専門大店(カテゴリーキラー)や百貨店がその役割を担っていた。時代がコト型にシフトしたのなら、その魅力で強力な集客を発揮する大型店が登場すべきだが、現時点でそれに近いのは東急ハンズ、LOFTなどの生活雑貨集積業態+ドンキホーテなどの何でもディスカウント業態
…のみであろう。TSUTAYA系の書店+カフェ+家電+音楽などもコト型(滞在型)新業態と言えなくもないが、時間つぶしに最適な『カフェ』と『書店』をとりあえずくっつけて滞在型にしました!的な印象を超えはしない。
以下、コト型消費に対応する業態の種類を列挙してみよう。

昔から在ったが昨今の時流によって盛り上がってきたタイプ
・インバウンド観光型消費(おみやげ、記念、価格格差購入)
・購買エンジョイ体験型店舗(ドンキ、LOFT、ビレッジヴァンガード)
店舗は増加してきてるが、逆に限界が見えてきて、成功例が少ないタイプ
・ライフスタイル&自己改革ツール品揃え型(インテリア、雑貨、収納、デザイン家電、ファッション)
収益性と立地・商圏規模の高度なバランスが求められるタイプ
・単品毎の使用価値・利用法・活用法・Tips伝授&接客店舗(掃除グッズ、健康グッズなど)
・それぞれ異なるライフスタイルや指向性による取り揃え・組み合わせ方のアレンジを提案する店舗(インテリア、眠り、アロマなど)
・イベント・レジャー・趣味の楽しさ・魅力を訴求し、その道具立て(グッズ・ギア)を提供する店舗(スポーツ、音楽、登山など)
本来の純粋なコトを提供するサービス
・コトサービス・イベント・アトラクション課金型店舗(映画館、ネイルサロン、マッサージ等)

本命は課金型サービスと物販のコンプレックス業態

『ライフスタイル提案型』を喧伝する店舗はあまたある。しかし実際は、どこにでもある商品をアイテムミックスで陳列しただけの提案性(差別性)の弱い店舗が多い。また、かつては受けていた『海外の憧れのライフスタイル』を模したものもまだ多く、日本の実情に合っていない。アイテム複合なので単品ごとに見ると店としては頼りにならないケースが多い。
売場で『コト提案』をする難しさは、例えば以下のようなことだ。

●コトに特化した売場を作るには大型店のインパクトが必要
●コトを意識すると単品の商品は競合店と同質化しやすい。
●客層やライフシーンを絞ることはセグメントニッチ対応とな、大商圏でしか成り立たない
●サービス複合のオペレーションがまだ確立されていない。

このような難しさを克服して、コトと体験を軸に消費を喚起するには物販の力だけでは難しい。
今までにはなかった全く新しいサービスを複合させる必要がある。それは体験型である場合も、生活支援型であるケースもあるだろう。
ここまで書いたところで紙数(?)が尽きたので、この続きは次回に譲る。
ご参考までに、消費者のライフスタイルや興味関心が今どこにあるのか?昨年版ではあるが弊社が調査した資料を以下に引用したい。少なからずヒントが見つかるはず。

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主席コンサルタント

樋口 進

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